前回は、お子さんが「内向型」か「外向型」かを見極める方法や、それぞれの気質が成長とともにどのように変化していくのかについてお話ししました。
今回はさらに踏み込んで、「扱いやすい子」「扱いにくい子」「順応に時間がかかる子」「平均的な子」という、4つの気質タイプに注目し、それぞれの特徴を見ていきます。
わが子は、手がかからないタイプなのか、それとも手がかかるタイプなのか?
あるいは、その中間にあたるのか?
日々の様子を振り返りながら、お子さんの気質をあらためて見つめ直してみましょう。
9つの気質の特性
アメリカの心理学者、アレクサンダー・トマス博士は、青年期までの子どもの気質を研究し、気質を9つの基準に分類しました。
この9つの特性の組み合わせ(強弱)から、子どもを以下の4タイプに分類できるとしています。
- 扱いやすい子
- 扱いにくい子
- 順応に時間がかかる子
- 平均的な子
この4タイプを理解する前に、まずはその基礎となる9つの気質の特性を見てみましょう。
これらを知っておくことで、子どもの行動の背景がより理解しやすくなります。
活動性
運動活動の頻度や激しさを指します。
活発な子はよく動き、行動が素早く積極的です。
一方で、穏やかな子は落ち着いており、じっとしている時間が長い傾向があります。
規則性
空腹・睡眠・覚醒といった身体のリズムの規則性を示します。
決まった時間に食べたり眠ったりする子は規則的で、そうでない子はスケジュールが読みにくいことがあります。
新しい刺激への敏感さ(チャレンジ力)
新しい物や人への接し方で判断されます。
積極的に近づく子もいれば、避ける・警戒する子もいます。
順応性
環境や状況の変化に対する適応力を表します。
順応性の高い子は変化に柔軟に対応できますが、低い子は戸惑いや拒否反応を示すことがあります(例:急な予定変更など)。
反応の強さ
感情の起伏の度合いを指します。
反応の強い子は喜怒哀楽がはっきりしており、弱い子は感情が穏やかで安定しています。
五感の敏感さ
音・光・味・触覚などの外的刺激や、体調・痛みなど内的な感覚に対する反応の度合いです。
敏感な子は些細な刺激にも反応しやすく、鈍感な子はあまり気にしない傾向があります。
気分の質
ポジティブに物事をとらえるか、ネガティブに感じやすいかの違いです。
機嫌が安定している子、少し気難しい子などの差がここに表れます。
行動の可変性(切り替えのしやすさ)
今していることから、次の行動へスムーズに移れるかどうかを指します。
気が散りやすい子は切り替えが早い一方、こだわりの強い子は同じことを続けようとする傾向があります。
集中力
ひとつの活動にどれだけ集中し続けられるか、途中で飽きてしまうか。
また、うまくできなかったときの反応なども含めて評価されます。
このように、幼児期の段階でも、すでに9つの気質的な特性を持っていることがわかっています。
子どもをよく観察し、それぞれの特性を「強・中・弱」で判断して組み合わせることで、次に紹介する4つの気質タイプを見極めることができるのです。
わが子の気質を見てみると…
実際に私の息子をこの9つの特性で見てみると、こんなふうに整理できます。
「五感に敏感で、些細なことでもすぐに大きく反応する。
気が散りやすいため集中力は持続しないが、人の変化にはすぐに気づく。
新しい環境はあまり得意ではないけれど、新しいことにはワクワクするタイプ」
息子はいわゆる“超敏感っ子”。
特に幼少期には気になる点が多く、正直「ネガティブな要素が多いかも…?」と思うこともありました(苦笑)。
このように、まずは気質の傾向を客観的にとらえることが、子どもを深く理解する第一歩です。
それでは次に、これらをもとにした4つの気質タイプについてご紹介していきます。
子どもの性格タイプを理解しよう
アレクサンダー・トマス博士らの研究では、子どもの気質は大きく4つのタイプに分類されるとされています。
それぞれのタイプには異なる特徴があり、子どもへの接し方や育児の工夫にも違いが出てきます。
① 扱いやすい子(いわゆる「手のかからない子」)
割合:全体の約40%
※英語では “easy” タイプと呼ばれます。
このタイプは、いわゆる最も多く、育てやすいタイプの子どもたちです。
いつもニコニコと機嫌がよく、精神的にも安定しており、生活リズムが整っていて、新しい人・食べ物・環境にもすぐ順応します。
保育園や幼稚園にも愚図らず通えることが多く、成長に伴っても、新しい遊びや学校生活などに自然に適応していく力を持っています。
② 順応が遅い子(”slow to warm up”)
割合:全体の約15%
このタイプの子どもは、新しい環境や刺激に対して慎重で、適応に時間がかかる傾向があります。
活動的ではなく、初対面や初めての場所では引っ込み思案になりやすく、やや否定的な反応を見せることもあります。
ただし、生活リズムは整っており、機嫌も安定している子が多いのが特徴です。
不安が強く、新しいことを始める際には回避したがる傾向があります。
育児のポイント:
無理に急がせず、その子のペースで環境に慣れさせることが大切です。
プレッシャーをかけず、少しずつ励ましながら新しい経験を積ませていくと良いでしょう。
③ 扱いにくい子(いわゆる「手のかかる子」)
割合:全体の約10%
※英語では “difficult” タイプとされています。
このタイプは、感情の起伏が激しく、生活リズムが不規則で、新しい刺激への反応も強い傾向があります。
環境の変化に対して不安を感じやすく、順応に時間がかかることも少なくありません。
気難しく、よく泣き(しかも大きな声で)、癇癪を起こすこともしばしばあるため、保育園や学校の適応に苦労することもあります。
育児のポイント:
このタイプの子には、親の一貫した対応と感情のコントロールが非常に重要です。
感情的にならず、落ち着いて接することで、子どもも次第に行動の安定を学んでいくことができます。
④ 平均的な子
割合:全体の約35%
このタイプは、上記3つのいずれにも明確に当てはまらない子どもたちです。
それぞれの特性を少しずつ併せ持ち、全体的に見て「中間的なバランス」を持つのが特徴です。
参考サイト:Es Discovery Logs:発達心理学における性格と気質:ニューヨーク縦断研究
参考文献:エレイン・N・アーロン著, 明橋大二訳(2015)ひといちばい敏感な子, 1万年堂出版
こうしてタイプごとに整理してみると、“手がかからない子”と“手がかかる子”の違いがより明確に見えてくるのではないでしょうか。
また、それぞれのタイプには良い面もあれば、課題となる面もあります。
大切なのは、その子のタイプに合わせて、個性を尊重しながら成長を支えていくことだと感じます。
育て方のポイント
気質とは、”先天的に持っている刺激への反応傾向(行動特性)”のことを指します。
そして、幼児期の気質は、大人になったときの性格や個性、人柄といった「人格形成」の土台になるとも言われています。
子どもは成長するにつれて、環境や経験の影響によって行動や反応が変化・安定していくものですが、基本的な気質そのものは、大きく変わることはありません。
たとえば、大人しい子に対して「もっと積極的になってほしい」と願ったとしても、気質そのものが変わるわけではないため、無理な期待はプレッシャーになってしまいます。
私たちにできることは、まず子どもの特性をよく観察して理解すること。
そして、気になる部分があっても、それを補うような経験や環境を少しずつ与えてあげることです。
たとえば、大人しい子が積極的な子どもと一緒に過ごすことで、少しずつ「自分から動く」ことを学んでいくような機会も、そのひとつです。
子どもは、経験を通して自信をつけていきます。
「できない」と思っていたことも、周囲のサポートと経験によって「できること」に変わっていく可能性があるのです。
一般的に、人格は6歳くらいまでにある程度かたちづくられると言われており、幼い時期ほど、保護者の接し方や日常的な対応が重要になります。

扱いにくい子どもへのアプローチ
私の息子・まる子も、小さな頃は不安でいっぱいの子でした。
2~4歳は特に不安でいっぱいの時期で、公園などで会う子どもたちと一緒に遊べなかった
当時よくされたアドバイスは:
「もっと他の子と触れ合わせないからだよ。いろんな場所に連れて行ってみたら?」
もちろんありがたい助言ですが、敏感な子どもにとっては、逆効果になることもあります。
私はその頃、無理に他の子と交流させるのではなく、毎日決まった時間に同じ公園へ行くことだけを続けました。
社交的な子は、自分から声をかけてどんどん輪に入っていきます。
でも、息子には「場所に慣れ、周囲を観察し、自分なりに準備をする時間」が必要でした。
5歳になっても自分から話しかけることはなかったですが、声をかけられれば少しずつ遊べるようになっていきました。
また、マンションの管理人さんや保育園の先生など、毎日会う人に手を振ったりニコッと笑ったりするだけでも、「人との接し方」の練習になります。
あいさつや友だちとの関わりはすぐにできなくても、少しずつでいいからできるようになってほしい、そんな思いで日々見守ってきました。
6歳になった息子の変化
全体の約10%にあたる「扱いにくい子」タイプに、見事に分類されていた我が息子。
彼はHSC(ひといちばい敏感な子)でもあり、0〜4歳は本当に大変な時期でした。
癇癪も多く、感情の波も激しく、毎日が試行錯誤の連続だったように思います。
そして現在、6歳・小学1年生になった息子は……
大きく成長しました!
以前は常にプンプン怒っていた癇癪も少しずつ落ち着き、まだまだ未熟な部分はありますが、徐々にまわりの様子を見ながら行動できる、優しい子へと育ってきています。
もちろん、敏感さは今も残っていて、新しい学校生活には戸惑うこともあります。
でも、あの頃と比べたら、本当によく成長したと思います(苦笑)
さいごに
手がかかる子の育児は、思うようにいかないことの連続で、ときに孤独を感じたり、出口の見えない不安に襲われることもあります。
けれど、どんな子でも、時間とともに少しずつ成長し、変化していく力を持っています。
親としてできるのは、焦らず、無理をさせず、安心できる環境を少しずつ整えてあげること。
それは決して特別なことではなく、毎日の小さな積み重ねのなかで生まれていくものです。
たとえば、いつもと同じ公園、顔なじみの人、安心できる声かけ――
そうしたひとつひとつが、子どもにとっての“土台”となり、やがて大きな自信へとつながっていきます。
その子らしいペース、その子らしい歩みを信じて、のびのびと育つ力を、静かに、けれどしっかりと支えていけたら、それが何よりの育児なのかもしれません。